遺言作成の注意点

遺言書に関して以下のようなことでお悩みではないでしょうか。

  • 父が書斎の金庫に遺すと言っていた遺言書がどこにあるのかわからない
  • 母が知らない間に遺言書を作成していたが,遺言書を作成した時期は認知症で施設に入っており姉が無理矢理書かせたようだ

死後のご自身の遺産について,遺言書に残す方が増えてきました。

有効な遺言書が相続人,相続分といった遺産相続で懸念されるあらゆる事項について答えを示してくれますし,被相続人の遺志を実現するのに最も有効な手段だと言えます。

遺言書が無効になるパターンとしては,①方式に不備がある場合,②内容が不明確な場合,③遺言能力を欠く場合があります。

①自筆証書遺言は,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに押印するという方式により作成する必要があり(民法968条),この方式を満たさない遺言は無効になります。
例えば,パソコンで書いた遺言書(ただし,財産目録は除く)や押印がない遺言書,日付が特定できない遺言書(「4月吉日」など)は,それだけで無効になります。

②また,遺言書は,財産を特定する必要があります。当事務所で取り扱った事例でも,「一切の預貯金」という記載で有価証券や投資信託が含まれるか等で訴訟になったものがあります。
さらに,自筆証書遺言の場合,たとえ有効であっても,タンスの奥に隠れて直ぐに発見されなかったり,悪意のある相続人により改ざんや破棄されたりするおそれもあります。
このような自筆証書遺言のデメリットを解消する制度として,2020年7月から「自筆証書遺言保管制度」が始まりました。
これは,法務局(遺言書保管所)が自筆証書遺言を保管する制度です。
この制度では,法務局職員(遺言書保管官)が,預かる際に自筆証書遺言の方式に不備がないかチェックしてくれます(遺言の内容について相談することはできません。)。
預けられた遺言書は,法務局で原本とデータが管理され,相続開始後は,相続人が閲覧等をすることができます(遺言書の閲覧をした場合,その他の全ての相続人等へ遺言書が保管されている旨の通知がされます。)。
また,「自筆証書遺言保管制度」を利用すれば,家庭裁判所での検認が不要になります。

③15歳以上であれば遺言は作成できますが(民法961条),遺言の内容及び遺言に基づく法的効果を弁識,判断するに足りる能力(遺言能力)が必要です。
自筆証書遺言作成の際に遺言能力がなければ,遺言は無効となります。
遺言能力の問題は,自筆証書遺言だけでなく公正証書遺言でもありますが,公証人が関与しない自筆証書遺言の方が多く生じる印象です。
特に,認知症になった後にされた遺言は有効性を争われることが少なくありません。
認知症といっても人によって症状や程度に差がありますので,認知症になった後の遺言が一律に無効となる訳ではありません。(ア)遺言時における認知症の内容及び程度,(イ)遺言内容それ自体の複雑性,(ウ)遺言の動機・理由,遺言者と相続人又は受遺者との関係,交際状況,遺言に至る経緯などの事情が総合考慮されます。

有効な遺言を遺すために,法律事務所をはじめ,司法書士事務所,信託銀行などが遺言書のアドバイスを行うことが多いですが,それでも不備があり,生前に思っていた遺言書としての効力を持たないと判明することがしばしばあります。

そのような事態を避けるため,公正証書遺言の作成をお薦めします。

公正証書遺言は公証人というプロにより作成される遺言書です。公証人は,お客様の相続財産を踏まえた上で,お客様の希望を反映させるオーダーメイドの遺言書作成を実現します。

なお,唯一遺言書の内容を覆すことができる事柄として,遺留分という制度があります。これにより,各法定相続人は一定の割合で遺産に対する権利が守られます。詳しくは遺留分のページをご覧ください。